松本 節
猛暑まっ最中の8月9日に、カミさんと裏磐梯の方へ出かけました。早朝に家を出て、東北自動車道浦和インターまではすぐです。お盆休暇の前だし、まだ朝が速いので高速はすいています。すいすい走って途中1回だけ休憩して、郡山JCから磐越道に入り、猪苗代磐梯高原ICを出たのがまだ9時。それから、磐梯山を右手に見て、磐梯山ゴールドラインを五色沼の方に行きます。途中の「猫魔八方台」というところに駐車場があり、ここから2時間程度トレッキングをするのが最初の目的です。
10時前に猫魔八方台に到着。私たちはここから猫魔ヶ岳の方に行くつもりです。ここは、磐梯山への登山口でもあり、猫魔ヶ岳から雄国沼へのトレッキングコースの入口でもあります。
広い駐車場なのにすでにかなりの車です。隙間を見つけて休憩所の建物のすぐ近くに車を駐めました。で、車から出てみてびっくり。建物の木材の壁面のそこら中に青虫がいるではありませんか。よく見ると、地面のあちこちにもいます。気を取りなおしてまず、歩き出す前にトイレに行きましたが、ここにも無数の青虫が・・・・
猫魔ヶ岳方面に歩き始めましたが、ここは広大なブナ林です。そして、目にするブナの木のどれにでも無数の青虫がくっついています。太い幹にも、枝にも、葉っぱにも。何か糸のようなものでぶら下がっているものもいます。あまりの数に、上から落ちてくる青虫の音が間断なく聞こえます。私の頭の帽子にも落ちてきます。足下には落ちた青虫がそこら中にうごめいています。そしてよく見ると、この無数の青虫の間をすばやく飛び跳ねている、黒い大きな甲虫もいます。この虫はさかんに青虫を食べています。
青虫をできるだけよけながら、踏まないように気をつけて30分ぐらい歩いたでしょうか。両側のブナの木が迫って道が細くなっています。上にもブナの枝と葉っぱが重なって、トンネルのようになっています。これはまるで青虫のトンネルです。このトンネルをぬけたらいよいよ「青虫の国」に出るのでしょうか。そこには巨大な青虫の女王がいて・・・・
「ひえーっ、もうだめ。これ以上進めない、引き返そう。」
と私は言いました。しかし、カミさんは、・・・・
後で、五色沼のビジターセンターのお兄さんに「八方台で青虫が大発生して・・」と話しました。すると、彼はなんということもなく、
「ああそうみたいですね。今年は大発生してるみたいですね。」
というではありませんか。
このお兄さんは、次のように教えてくれました。
この青虫は「ブナアオシャチホコ」という蛾の幼虫です。ブナの木の葉っぱを食べます。森中のブナを丸坊主にしてしまうほど大量に発生して食べます。異常発生しているのではなく、8~12年に一度ブナ林でこのようになります。どこのブナ林でも発生するわけではなく、今年は八方台のあたりのブナ林で発生しています。これは、実は食物連鎖でもあり、大自然の営みの一つなのです。
つまり、ブナアオシャチホコが大量発生すると、それをエサにするたくさんの虫や鳥が現れます。クロカタビロオサムシという甲虫や冬虫夏草の一種であるサナギタケも大発生して、多様な生態系の中でそれ以上の増殖が抑制されます。ブナは葉を食べられて丸坊主になってしまうのですが、決して枯れません。それどころか2週間もすると、幼虫は地上に降りてサナギになります。その頃には、ブナ林に虫たちのフンが1センチもつもるのですが、これを栄養にしてブナは一層育つのです。
ということです。いやー、自然の力って奥深いですね。
青虫の国の入り口まで来たような気分になりましたが(カミさんは青虫の国に入り「人間には一人も出会わなかった」と言いながら虫まみれで帰還)、8~12年に一度の決まった期間に、特定できない場所に大発生するということを考えると、こういう自然現象に出くわすのは貴重なことだったのだと、後で思いました。