第3回 弾弦の位置

第4代 黒川

 演奏会に行って、第1曲の最初の音を聴いて、その音色の美しさにそれだけで満足して帰ってきたことがある。そのくらい音色というものの持つ力は大きいと思う。私自身はそれ以前に弾けるか弾けないかのところをいつも右往左往していて音色に気を使うまでには至っていない。それでも思いを致しておくだけでも後々役に立つかもしれない。ギターの場合、音色を決める要素は色々ある。楽器・弦のメーカー・右手のつめから始まって弾く角度・速さあるいは左手の押さえ方、おなかへの乗せ方・支え方、同音異弦の使い方などなど。今回は弾弦の位置での弦の音色の変化について見てみよう。
 開放弦を弾くことを考えてみる。開放弦を弾くと12フレットあたりが一番大きく振れている。これがこの弦が出す一番低い音の振動でこの音のことを基音という。基音以外にそれより高い倍音といわれるものがそれに混ざっている。基音の整数倍の振動数を持っている。つまり弦はいくつもの細かい振動と基音の振動とが混ざったものといえる。この混ざり具合が音色の元となっている。
 管楽器などではクラリネットなどのように高音域・中音域・低音域で特徴のある音色を持っているのがあるが、どの音域でも音色を変化させることができるのはギターの特性であるといえる。それを簡単に可能にするのが弾弦位置の変化だ。
同じ開放弦でも弾弦位置を変えることにより倍音の出方を変えることができる。おおまかには、ブリッヂに近いところを弾くほうが高い倍音まで含まれる。そしてブリッヂから遠いほうが倍音が少なくなる。この関係は弾いている弦の長さ(押弦後の長さ)に対しての比で決まるので、音高が変わっても 同じ比(音色)を保持しようとすると、左手が開放弦から段々高いポジションを押さえるのにつれて、右手も段々ブリッヂに近くしていくことになる。
 たとえば1弦の5ポジションでA-B-A-B(ラーシーラーシ)の音を弾くとき右手の指は何を使うか。i-a-i-aで弾くのとa-i-a-iで弾くのとでは音色が異なる。つまりA(ラ)よりもB(シ)のほうが弦長が短くなっているので、Bを弾くときの右指はよりブリッヂに近いところを弾く必要がある。iよりもaのほうがブリッヂに近いのでここはi-a-i-aで弾く。当たらずといえど遠からずなのでお試しあれ。
 山彦というものがある。これは出した音がどこかで反射して戻ってくるもので、反射するときに倍音が吸収されるので、戻ってくる音は倍音の少ない音となる。したがって、曲の中でこの山彦をまねるときにはこの特性を使う。オーケストラでは倍音の多いクラリネットの出した音のエコーとして基音成分の多い(倍音のより少ない)フルートを使える。ギターでは元の音を弾いたときよりもブリッヂから遠いところで弾くことによってエコーの感じを出すことができるのではないか。
 標準的にはどこいら辺を弾けば良いのだろう?分からない。見ていると結構人によって差がある。弾く場所によって弦の硬さが変わるので、変わってもおたおたせずに弾けるように普段から変化をつけて練習しておくというのはどうだろう。ピアノのハンマーは弦長の7分の1から9分の1のところをたたいているそうです。第一弦のハイポジションを弾くときにそこいら辺を弾くとピアノの高音部の響きと似ているのが分かります。

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