皆さん、こんにちは。
前回からずいぶん時間が経ってしまいました。また、はじめますのでよろしくお願いします。
さて、倍音関係のエクセルのワークシートを試してみていただけたでしょうか。一生に1度、見ておくだけで良いと思います。自分が弾いている弦の倍音がどうなっているのか見てみて下さい。
さて、まずは音高の話から。
「クロちゃん、ギターの音って高さが変わると言っている人がいるけれど本当かい?」
中国にいる会社の先輩から電話がかかってきました。
「だから、スピーカーの試聴テストの音源にはギターは使いにくいと言っているんだけど。」
私は、「基本的にありえない話です。振動している間に弦の質量や長さが変わらない限り音高は変わらないでしょう。」
と答えた。
何かギターの地位が低く見られたような気がしてとっさに言ったのだった。
しかし、弾弦してから音が落ち着くまでに音高は変わるのが現実だ。
今回は、初めにそこいら辺のところから考えてみよう。
■定在波
前回まで倍音の話をしてきました。この話は、弦の両端の支持点が完全に固定されていることを前提にしたものです。つまり、両端で弦を支えているナットと駒が、お互いに動かないということが条件です。そしてこの条件の中だと今までお話した倍音が安定的に発生するのです。この安定的にというところがみそです。倍音はある見方でいうと「定在波」といわれるものです。同じ形の波が安定的に存在するということです。
このときはもちろん基本波も安定しているでしょう。これが音高のおおもとです。
■進行波と定在波
ロープの端を地面から手の高さほどのところに固定して、他端を手に持ち、勢い良く上下に振ってみましょう。ロープが波の形になりそれが前へ進んでいくように見えると思います。これは「進行波」と呼ばれます。そして弦の振動の場合などでは、進行した波はナットなどの固定点で反射して戻って来るのです。「定在波」というのは、両端に向かう波・両端で反射してくる波がちょうど良く助け合って同じ状態が保たれて、波の形が同じ場所で動かなくなっていることなのです。これが2次・3次・・の倍音になります。
弦が弾かれて音が出るわけですが、弦の振動だけで大きな音が出るわけではありません。胴体が鳴って大きな音がするわけです。弾かれた弦の振動がブリッヂを通って表面板に伝わるわけです。このときにはブリッヂつまり表面板が振動していなくてはいけません。つまりブリッヂは動いているのです。定在波の条件がこわれています。そして逆からみるとロープを手で振ったときのように、弦はブリッヂから揺さぶられているわけです。すると、必然的に進行波が起こっていると考えられます。そして、基本波も揺さぶられていると考えてよいでしょう。
このように実際の弦の動きは厳密には基音や倍音だけではなく、他の要素も含んで振動しているわけです。また音の多くは胴体から出ているといわれています。胴体は共鳴の集合体です。人が感じる音高は基本波だけでなく、混じっている高調波(倍音)の割合によっても変わるといわれています。ですから音高が、弾いた直後から時間が経つにつれて微妙に変化するのもしかたないことです。
■電子式チューナー
最近電子部品の高性能化・低価格化が起こり、電子式ギターチューナーが一般化しています。少し気になるのが「合っている」という状態が本物かということです。「合っている」ときには針が真ん中に来る、という製品の中に、音高が多少ずれていても針が真ん中に居座り続けている感じがするものがあります。つまりある幅の中に高さが入っていれば、針が真ん中に来るように作ってあるようなのです。「それくらい聞き分けられない範囲なのだからどうでもいいじゃん、」ということなのかもしれませんが、私はメーターは生の状態を映す鏡であってほしいと思っています。とにかく自分の機械の性質を良く知って使いましょう。
■音程、セント
音の高さを比較してどの位近い音だと区別できないのか。これについては、2セントから5セント位だといわれているようです。セントという単位は、半音程や全音程と同じく音の高さの間隔を表わします。1セントは半音程の100分の1と決められています。
半音程を12個積み重ねれば1オクターブになるのと同じように、1セントを100個積み重ねれば半音程になるということです。
(ですから、12×100で、1オクターブは1200セントになります)
セントについて具体的に例を作って見てみましょう。
基準にA音=440Hzを使います。1秒間に440回の振動です。
100セント=半音の間隔
半音下A♭は 415.30Hz
半音上A#は 466.16Hz
です。25Hzから26Hz差が半音ですね。
元の音に5.946%上積みすると半音上になります。
1セント差は0.0578%です。
聞き分けの限界(丁度可知差異)といわれる5セント。
5セント下 438.73Hz
5セント上 441.27Hz
440Hzに対して、1.3Hz差。
これが一応の聞き分けの限度とされている差です。
更に、聞き分けの限界といわれることがある2セント。
2セント下 439.49Hz
2セント上 440.51Hz
440Hzに対して、0.5Hzしか違わないのですね。
これを聴き分けるのはよほど訓練した人でしょう。
基準音として442HzのAも使われています。
これは440Hzからセントで言うとどの位離れているのでしょうか。
440Hzから8セント上 442.04Hz
約8セント離れているのですね。「丁度可知差異」の5セントを少し超えたところです。
A=442Hzを使っている人は、音色が明るくなると言って使っている人が多いようです。同じ楽器で言えば弦の張りが強くなるわけです。純粋な音高の違いだけによるものか、楽器の性質によるものかの判断は難しいところです。
因みに5弦の開放弦は2オクターブ下ですから、4分の1の110Hzとなります。上の結果をすべて4分の1にして見てください。